東京地方裁判所 平成2年(ワ)4849号 判決 1991年11月27日
原告 福島貞弘
<ほか四名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 宮崎捷寿
被告 中央観光事業株式会社
右代表者代表取締役 矢生光繁
右訴訟代理人弁護士 青木逸郎
主文
一 被告は、原告らに対し、各金二〇〇万円及びこれに対する昭和六一年五月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
主文と同旨
二 被告
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、ゴルフ場の経営管理を目的の一つとする株式会社であるが、昭和四七年頃、神奈川県足柄上郡山北町向ケ原に「松田カントリークラブ」という名称のゴルフ場(以下「松田カントリークラブ」という。)を開設経営することを企図し、会員を募集した。
2 原告らは右募集に応じ、原告福島貞弘は昭和四八年二月一六日、同御厨健次郎は昭和四七年一二月二二日、同清水袈裟夫は同年一一月二一日、同久保博和及び同久保愼太郎は同年一二月二八日、それぞれ資格保証金二〇〇万円を被告に支払い、松田カントリークラブの個人正会員として入会した。
右資格保証金については、全額を被告に対する預託金とし、被告は、これを五年間据え置いた後、請求あり次第返済する旨の約定がある(松田カントリークラブ規則七条)。
3 原告らは、被告に対し、昭和六一年四月二八日到達の内容証明郵便をもって、二〇〇万円の各預託金を五日以内に返還するよう求めた。
4 よって、原告らは被告に対し、それぞれ右預託金各二〇〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和六一年五月四日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の事実は認める。
三 抗弁
1 消滅時効
原告らの本件預託金返還請求権は、原告らがこれを預託した日から五年の据置期間を経過した日の翌日から、それぞれ五年(商法所定の時効期間)又は一〇年(民法所定の時効期間)の経過をもっていずれも時効により消滅したものであって、被告は、平成二年七月二五日の本件口頭弁論期日(五年の消滅時効につき)及び平成二年七月五日の本件口頭弁論期日(一〇年の消滅時効につき)において、原告らに対し、右時効を援用する旨の意思表示をした。
2 更改ないし債務免除
被告は、原告らとの間で、松田カントリークラブの会員権と訴外相模野カントリークラブの会員権とを交換することを約し、被告は、原告らに対し、相模野カントリークラブの会員権を譲渡し引き渡したことによって、本件預託金返還債務につき更改ないし免除がされたものである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。松田カントリークラブ規則によれば、据置期間経過後は預託金の返還を請求して退会することができるのであって、退会することなしに預託金の返還請求はできないから、その返還請求権の消滅時効の起算点は、返還請求権を行使した時点とみるべきである。
2 抗弁2は否認する。原告らが相模野カントリークラブの会員証を受け取ったことはあるが、これは被告が会員の非難を避けるため一方的に預けていったもので、被告の本件預託金返還債務が消滅することを承諾して受け取ったものではない。
仮に、被告主張のような更改があったとしても、相模野カントリークラブの会員証は貸金の担保として被告が所持していたもので、真実、施設利用権や預託金返還請求権は存在せず、原告らは更改時にそのことを知らなかったから旧債務は消滅しない。
第三《証拠関係省略》
理由
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について検討する。
1 抗弁1(消滅時効)について
《証拠省略》によれば、松田カントリークラブの規則では、会員資格保証金(預託金)の返済を受けた者は自動的に会員の資格を失うものとされていることが認められる。そうすると、会員としては、据置期間の経過後はいつでも預託金の返還を求めることができるものの、退会することなしにはその返還を求める余地はないというべきであるところ、据置期間が経過したからといって、会員が退会を強制されるいわれはないから、据置期間の経過により当然に消滅時効が進行すると解すべきではなく、会員が退会あるいは預託金の返還を申し出て初めて消滅時効が進行すると解するのが相当である。したがって、被告の抗弁1(消滅時効)の主張は失当である。
2 抗弁2(更改ないし免除)について
被告の主張の趣旨は定かでない。債務者の交替による更改であれば、新債務者(相模野カントリークラブの経営者)との合意が必要となるが、その主張立証はないし、また、本件全証拠によっても、原告らが被告に対し本件預託金返還債務を免除する旨の意思表示をした事実は認められない。
また、被告の主張は、原告らの有する松田カントリークラブの会員権(預託金返還請求権)と被告が有する相模野カントリークラブの会員権(預託金返還請求権)とを交換したことにより本件預託金返還債務が消滅したと主張する趣旨とも解されるが、しかし、証人福島義輝の証言によっても、具体的に被告と原告らとの間で右主張のような交換の合意が成立したと認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない(なお、原告らが相模野カントリークラブの会員証を受け取ったことは、原告らの認めるところであるが、しかし、会員証は有価証券ではなく、単なる交付だけでは権利移転の効果がないことはいうまでもないし、被告において当該会員権を原告らへ譲渡するための手続を行った形跡もない。)。
右のとおり、被告の抗弁2(更改ないし免除)の主張はいずれにせよ失当というほかない。
三 そうすると、原告らの本件請求はいずれも理由があるから(なお、本件預託金返還債務は商行為によって生じたものと解されるから、その遅延損害金は商事法定利率によることとなる。)、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤久夫)